近年、中国を巡る情勢はかつてない不透明感に包まれています。かつて「世界の工場」として成長を牽引した中国は、今や「世界の不確実性」の源泉となりつつあります。著述家として、また投資家の視点から、現在のチャイナリスクを構造的に整理します。
1. 中国経済の構造的疲弊:内包する三つの時限爆弾
現在の中国経済は、これまでの成長モデルが限界に達した「構造的なデッドロック」に陥っています。
不動産バブルの崩壊と負の連鎖
GDPの約3割を占める不動産セクターの不振は、単なる市場価格の下落に留まりません。開発大手のデフォルトは地方政府の財源を直撃し、地方債務問題(隠れ債務)を深刻化させています。
二元構造が生む貧富の差の拡大
都市部と農村部を分断する戸籍制度は、依然として深刻な格差を維持しています。経済成長が鈍化する中で、この格差は社会不安の底流として蓄積されています。
高学歴層の「寝そべり」と就職難
若年層の失業率は極めて高い水準にあり、国家に対する「期待の喪失」という深刻な精神的停滞を招いています。
2. 分断の装置「二元戸籍制度」:見えない壁がもたらす格差
この経済停滞の深層にあるのが、1950年代から続く「戸籍制度(戸口)」です。
社会保障の格差
都市戸籍を持つ住民は手厚い年金や医療、質の高い教育を享受できます。一方、農村戸籍の者が都市で働いても(農民工)、子供の教育や医療で「二級市民」として扱われる現実があります。
富の固定化
不動産バブルの恩恵を受けたのは主に都市戸籍保持者です。農村部は資産形成の手段が乏しく、これが埋めがたい貧富の差を構造的に定着させています。
3. 数値で見る経済の悲鳴:ジニ係数と若年層の絶望
「共同富裕」の旗印とは裏腹に、統計データは厳しい現実を突きつけています。
貧富の差(ジニ係数)
社会不安の警戒線とされる0.4を大きく上回る0.47前後で推移。一部ではさらに深刻な数値も指摘されています。
大卒の就職難と失業率
2025年の大学卒業者数は1,222万人と過去最多。しかし、若年失業率は16%〜17%台と極めて高く、全体平均の3倍以上に達しています。「300社応募して内定ゼロ」という雇用のミスマッチは、もはや日常の風景です。
4. 「脱中国」の加速:ビッグテックと日本企業の決断
この内部崩壊を察知したかのように、世界の資本は「ポスト・チャイナ」へと舵を切っています。
Appleの劇的な転換:
iPhone生産のインド集約を加速。2026年にはインドでの生産比率が**25%**に達する見込みです。
Googleの動き
スマホ「Pixel」シリーズの生産拠点をベトナムへ移管。関税リスクと当局の規制を嫌気した動きです。
日本企業の撤退: かつての親中企業・キヤノンが広東省の主要工場を閉鎖。生産拠点の「脱中国」を鮮明にしています。
5. 習近平体制の変質:粛清の論理が招く「沈黙の恐怖」
経済の混迷に対し、政治は「全方位への不信」という形で反応しています。
「反腐敗」から「側近の排除」へ
反腐敗のターゲットはかつての派閥争いを超え、今や習近平氏自らが引き上げたはずの「子飼いの幹部」にまで粛清が及んでいます。ロケット軍幹部や、幼馴染の制服組トップの張又侠(ちょう ゆうきょう)にまで及ぶ更迭劇は、権力基盤の不安定さを示唆しています。
軍とメディアの奇妙な沈黙
重要閣僚の失踪に対し、主要メディアが整合性を欠いたまま「無かったこと」にする沈黙の期間は、文革期を彷彿とさせ、投資家にとっての「予見可能性」を完全に喪失させています。
6. 中国現体制の崩壊の可能性と株式市場への影響
「中国共産党による統治の安定」という前提が崩れる可能性は、市場にとって最大級のブラックスワンです。
カントリーリスクの再評価
体制の動揺は、突然の法改正や資産凍結のリスクを高めます。中国株は「割安だから買う」対象から「予測不能なため回避する」対象へと変質しました。
世界的サプライチェーンの再編
中国国内の混乱はインフレ要因となり、世界の株式市場全体に長期的な下押し圧力をかけることになります。
7. 台湾進攻の可能性と株式市場への影響
地政学リスクの頂点にあるのが台湾有事です。
「内政問題の転嫁」という懸念
国内経済の立て直しが困難になった際、ナショナリズムによる求心力維持のために有事が引き起こされる歴史的パターンに警戒が必要です。
特にトランプ大統領が在任中は、中国による台湾進攻や経済封鎖に対してアメリカが黙認する可能性があり、次の大統領選挙が行われる前年の2027年を危険視する声があります。
市場への壊滅的影響
台湾は半導体供給の要です。有事が発生すれば、ハイテク株を中心に世界の株式市場はパニック的な売りを経験するでしょう。安全資産への資金移動が加速するシナリオを想定せざるを得ません。
まとめ:歴史的転換点に立つ投資戦略
これらの動きは一過性の景気循環ではなく、**「世界のサプライチェーンから中国が切り離されていく」**という不可逆な構造変化です。
中国関連のニュースは扇情的なデマも多いですが、常に「公式発表の行間」を読みつつ、客観的な事実と照らし合わせることが、フェイクニュースに惑わされない唯一の道です。
投資判断においては、現在の中国市場を「一時的な調整」ではなく「長期的構造変化」の渦中にあると捉え、インドやベトナムといった代替先へシフトできている企業を見極めることが、2026年以降の最優先事項となるでしょう。

コメント